Revealing the Unseen“見えない”を可視化する、ハイパースペクトルカメラの力
がん診断の「DX化」―すなわち、より迅速かつ正確な診断を可能にする技術革新へのニーズは、世界的に高まっています。
その課題に応える革新的なアプローチとして、私たちが提案するのが「ハイパースペクトル技術」です。
この技術は、もともと宇宙開発のために生まれたもので、人工衛星に搭載され、地上の鉱物資源探査や軍事偵察など、
極限環境における高精度な観測に活用されてきました。
このカメラの最大の特徴は、人間の目を超える色分解能にあります。
通常のカメラは、人間の目の色覚に合わせて3原色(RGB)で光を捉えますが、
このハイパースペクトルカメラは、141原色を捉えます。
これにより、人間の目をはるかに超えた色認識が可能になります。
以下は、ハイパースペクトルカメラを顕微鏡に取り付けて撮影した画像です。
一見すると、通常の顕微鏡画像のように見えるかもしれません。
しかしこの画像では、任意の1ピクセルを指定するだけで、その部位の「スペクトル」と呼ばれる波形データを取得できます。
このスペクトルは、人間の目では識別できない微細な色情報を含んでおり、細胞のわずかな違いを高精度で捉えることが可能です。
私たちはこのスペクトル情報を細胞核ごとに取得し、AIに学習させることで、がんの予測に挑戦しました。
その結果、7種類の臓器において、がん細胞を90%以上の精度で識別できることが明らかになっています。
この成果は、従来の診断手法では見逃されやすかった微細な兆候を捉えるものであり、
病理診断の精度向上に大きく寄与する可能性を秘めています。
現在までに、この技術に関連する2件の特許を取得。
さらに、グローバル展開を視野に入れ、海外での応用にも積極的に取り組んでいます。
冒頭でご紹介した細胞画像をこのAIに解析させると、ご覧のようにがん細胞と正常細胞を自動的に識別することができます。
さらに、細胞ひとつひとつを個別に検出・分類することも可能です。
顕微鏡とカメラで撮影するだけで、これまで専門医が担っていた煩雑な作業を省くことができ、
効率的かつ客観的な診断支援を実現します。
この技術は、ハイパースペクトル技術とAIを組み合わせたシステム「ANSWER」として開発を進めています。
顕微鏡に取り付けたハイパースペクトルカメラで撮影し、その画像をアップロードすることで、
解析結果を得るというシンプルな流れです。
これにより、高精度なスクリーニングの実現だけでなく、診断プロセス全体の効率化も期待できます。
一方で、現在の技術では細胞採取を伴うため、患者の身体に一定の負担がかかるという
「侵襲性」の課題が依然として残されています。
しかし、ANSWERは、血液・唾液・尿といった体液中を流れるがん細胞の検出にも対応可能です。
この機能により、より低侵襲、さらには非侵襲的な検査の実現へと近づいており、
侵襲性の課題を克服する可能性が見えてきました。